般若心経(はんにゃしんぎょう)

6年前になるだろうか、私が倉庫を整理していると、段ボール箱3箱に詰め込んであった古い単行本や文庫本が出てきた。600冊ほどある。

それらは、私が25年程前に、引越しのとき、前の本棚を整理したときに、どうしても捨てられない書籍をダンボール箱にしまいこんだものだった。

大げさに言えば、それらの書籍は、これまでの私の人格形成にかかわった、または影響を与えた書籍類といえなくもない。

あれから20年も倉庫に置かれたままになっていた。

しかし、その大半はもう虫に食われているか、カビに犯されてぼろぼろに破れてしまっていた。

その中でも、状態のいいものだけを取り出し、捨てるのもしのびないので、倉庫に急ごしらえの木製本棚を作り、そこに並べた。
200冊ほどが本棚に並んだ。
見ようによっては、図書館の風情さえある。

息子のコウは中学3年か高校一年になっていた頃である。
私はちょっと得意気に、そんな息子に、ここの図書は、いつでも自由に読んでいいからね。といった。

「俺にとっても、思い出深い本ばかりだから、何かの参考になるかもしれないよ」
と、そんなことも付け加えた。

それから間もなくして、息子の部屋の本棚に、一冊の見覚えのある本が並んでいるのを目にした。
それは、「般若心経入門」という単行本である。著者は松原泰道というお坊さんである。

その本は、私が21歳頃に買い求めた思い出深い一冊だった。
般若心経は、276文字に凝縮された、人間の、社会の、この世の、真理を解いた仏教の宗教書であり、また哲学書でもある。

般若心経とのであいは、私が19歳のころで、当時学生だった私と寮の同室で暮らすことになった同年のA君が、毎朝のように「般若心経」を唱えていたことからはじまる。

当初はA君を薄気味悪がったが、般若心経の内容を知るにつれて、私は興味を抱いていった。そんな思い出がある。

その時以来、般若心経は、私の身の周りにいつもあるという存在になった。
般若心経に関する書籍も、3冊ほど持つようになった。
私は何の宗教にも関わっていないにもかかわらず、その後は、様々な宗教書にも手を出し読みあさったりした。

ようするに、好奇心がおおせいなのである。
そんな書籍の中にあっても、「般若心経入門」(松原泰道著)は、やはり素晴らしいし、好きな本であり、手放せない一冊である。

その「般若心経」が、息子の本棚に並んでいるのが、私には嬉しかった。

その本を、息子が読了したのかどうかは分からない。

先日、私は、今は亡き息子の本棚から、その「般若心経」を取り出し、久しぶりに再読してみたのである。

般若心経を知らない人でも、次の言葉は聞いたことや、目にしたことはあるのではないだろうか。

「 色即是空 空即是色 」(しきそくぜくう くうそくぜしき)

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