引き出しいっぱいの原稿用紙

部屋を片付けることになり、当然タンスの中も整理することになった。
けっこう私は、モノをためる癖がある。もちろん汚いものは捨てるけど、本一冊をとってもなかなか捨てられない。
その本を買ったり読んだりしたときの思い出があるからだ。

そんななか、私のタンスの一段から、引き出しいっぱいに埋まった古びた原稿用紙が出てきた。もちろん私の記憶の一隅には、そのことはあった。
昔、私が小説家を目指して?・・(あくまでも個人的に)
書き溜めた原稿である。

当然捨てるものと思い込んでる嫁が、腕を組んで、固唾を呑んで私を見ている。
私も、「捨てよう」といった。

そこまではよかった。
そこから、一束になった原稿用紙に眼を通したのがよくなかった。

「あ~あ、」という嫁の声が遠くで聞こえた。
私は、それから、引き出しの中の4束ほどを読んだろうか・・。
気がつけば、もう夜ご飯の時間になっていて、子供が「ご飯だよ」と後ろから声をかける。

私は気まずい思いで、家族の輪の中に入っていく。
「やっぱり、捨てられないんでしょう」
そんな私の背中に、嫁の声がするどく刺さる。

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嫁をもらいに、彼女の家へ挨拶に行ったとき、
「君、小説を書いているんだって?」
と、彼女の父親がいった。
「あ、あ、・・はい」
私は、彼女と付き合ってた当時、私の部屋で、彼女へ原稿用紙の清書を頼んでいたのだ。「それは良くないな。・・」
彼女の父親はそういうと、
「○子と、小説と、君はどっちが大事かね?」
と聞いてきたのだ。

私は、どう答えたらいいのかも分からないままに、
「はい、○子さんです」
「そうだよね。それならいいけど、もし小説だなんていったら、嫁にはやらないよ」

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そのあと、しばらくして、私のペンは止まったのだった。
しかし、それまで書き溜めた原稿は、何度も捨てられそうになりながらも、引き出しの中に埃をかぶってしまいこまれていたのである。

ああ言った彼女の父も、もう既に亡くなり、いまはもういない。

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