息子へ、ただ一度の父親からの手紙・・

この手紙は、私が、先日亡くなった息子へ渡した、たった一通の手紙です。
時期は、2013年5月14日。
当時息子は18歳。公務員試験に挑戦中で、一次試験は突破しても、二次試験で苦戦しているさなかでした。
そんな中、父親の私は、彼に少しでも力になりたくて、「生きとし生けるもの」という文庫本といっしょに、一通の手紙を手渡したのです。

———–(以下、手紙文)———–

コウへ
                         父より(2013年5月14日)

日々がんばっているね。ご苦労さん。
よく頑張っているな、と、父の私から見ても、自慢できる息子です。
ただ、体をこわさないように、体調管理をうまくコントロールして、やってください。
(食事とか、栄養とか、時間の配分なども含めて)

それで、なんで手紙なんだ?‥については、以下を読んでもらえれば、分かってもらえると思います。

今日、「生きとし生けるもの」(山本有三(やまもとゆうぞう)著)という本を読み終わって(私は三度目くらい読んだかな)、コウへ手渡して、「読んでみたら」とでも言おうかと思ったけど、なんか、それだけでは言い足りないような気がして、こんな手紙を書いたのでした。
というか、ちょっと付け足したい言葉があり、それを、口でいうのもなんか照れも入りそうで、うまく伝わらないかも?‥と思ったこともあったからです。
つまり、コウの今後の面接のときなんかに、何か役立つんではないかなと‥。

「何か、最近読んだ本などありますか?」とか、「これまで読んだ本で、印象深い本などありますか?」なんて、面接官に聞かれたときのために、こういう本でも読んでおいてもいいかもしれない、と思ったのです。
ちょっと古い本だけど、有名な著者だし、いい本だし、それだけに、他の受験生との差別化がはかれるかもしれない、と。
私が面接官なら、「おお、珍しい本を読んでいるな」とか、「今どきの若者には珍しい」などと、好印象をもたれるかもしれません。それだけでも、横並びの成績なら、頭一つ飛び出せるかも、と思ったのです。

いま、公務員なども、財政面だけでなく、社会からの見る目や風当たりも強くなっている分、採用がきびしくて、採用するほうも、単に成績優秀者を選べばよいという考えではなくなっているようです。
成績優秀者はけっこう集まっているし、もしかしたら成績優秀者集団なのかもしれません。そういう職場ですから、成績優秀者はおおぜいいるのです。珍しくもなんともないのです。
だから単にさらに成績優秀者を増やそうなどとは考えていないかもしれないのです。
私が思うには、体力があって、ちょっとやさっとではへこたれないヤツ。(精神的にも、体力的にもタフな人間)
打たれ強い人間というのかな・・。使いまわしのきく人間というのかな・・。
上司や先輩に強く言われただけで、へなへなになってしまって、すぐ休んだりしない人間というのかな。・・そういう人間を求めているのかもしれません。
また、もう一つのタイプは、成績優秀プラス、簡単にいえばアイデアを持った人間。幅広い知識を持った人間(学問だけでなく)かな。

公務員は、どうしても世間が狭いと思われているから、(安定性があるから、どうしても競争心が薄れ、しらずのうちにそうなってしまうんだけど)これからはそれでは通用しないと、お役所(公務員)自体がそう思っている。
だから、広い知識を持って、アイデアを出せる、または企画力のある人間を求めている節があると、私はそう思っているんだ。
そういう意味では、コウに、父親のこんな意見も、参考になればいいと思っているのです。

「生きとし生けるもの」、いい本ですので、時間があったとき、ぜひ読んでみてください。
この前、お前の母親の前で、「文章は歳とらない!」などといって、母親から「うまい!」などとほめられたけど、この本の内容のことを私は言ったのでした。
昭和元年(1926)に書かれた本なので、まもなく90年も昔に書かれた本になるわけだけど、人間の本質をうまくとらえて書いてあり、現代社会にも十分に通用することから、私は「歳をとらない」と言ったのでした。

コウも、18歳を過ぎ、もう大人の仲間に入ろうそしているので、あまり口やかましいことは父の私からも、言わないようにしています。
それでも、いつも私は、コウのことを考えています。
面と向かってはなかなか言えないけど、心の隅っこに、覚えておいてください。
そして、やはり、深みのある、人間性を持った、魅力ある人間(社会人)になってください。

長く書いてしまいましたが、私ごと、私が父親の心境を知ったのは、私が専門学校に入ってから、父親の手紙によってでした。
私の父親は、口べたで、けっこう照れ屋さんだったみたいです。
父子などとは、意外と、そのような関係なのかもしれません。
そして、私は、父親と、もっと話したかった、と思ったときには、父はもう他界しておりました。
あの時の父からの手紙の束を、私は、今も持っているのです。
世の中とは、そんなものかも知れません。

最後に、といっても、また手紙を書くときもあるかもしれませんが、「コウに幸あれ!」と、エールを送らせていただきます。
ただ、あんまり頑張りすぎないように。
また、全てにいえることですが、考えすぎないように。
(この「考え過ぎない!」は、いまでも私が大事にしている言葉です。)

父より

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