あのときの男は私です。(柔道の受身について)

恥ずかしい話なのですが、あれは、もう10年も前になります。
ステップスケーター(今は見なくなりましたが、当時は流行っていました。)
季節は春うららかな、晴れた桜の季節でした。

桜並木が続く、地元では有名な河原沿いの道路の歩道を、私はそのステップスケーターを駆って、得意げに、桜の花びらの舞い散る中を、走っていました。
有名な数百本もつづく桜並木の道路ですから、長い車の渋滞がつづいていました。

私は、内心、「しまったな!」と思いつつ、歩道を得意げに走っていたのでした。
しまったとは、これほど車の列が続いているとは思ってもいなかったからでした。
車の中の人たちは、動かぬ車にいらだち立っていたことでしょう。
いくら桜がきれいだといっても、同じ光景には飽き飽きしていたと思います。

そこへ、半ズボンをはいた中年のおじさんが、これ見よがしに「ステップスケーター」を得意気に駆って、歩道をスピードにのって流れるように走っているのです。
見たくなくても、目に付いたでしょう。
車の中の家族や、子供たちに好奇の目が向けられていることに、私も気づかないわけにはいきませんでした。
その車の中の、多くの眼に気づいて、私は「しまったな!」と思ったのでした。

自転車でもよかったものを、何もまだ珍しい「ステップスケーター」などを持ち出すんじゃなかった・・。
そんなふうに思いながら、スピードをあげて早くこの窮屈な空間を抜け出そうと、私は猛烈にスピードを上げて走りはじめた時でした。

歩道の裂けた切れ目の窪みに、ステップスケーターの前輪がはまり、急ブレーキがかかり、いきなり止まったのでした。
当然、私の体は前のめりに倒れこみました。
倒れこんだなどという姿ではなかったと思います。
前方の宙に投げ出された。・・そんな姿だったと思います。

頭が歩道のアスファルトにいきなり近づいて、私はアスファルトの砂粒までが判別できるほど急激に眼前に地面が近づいてきました。
「やばい!」
私は、顔面をしたたかに打ち付けるのを覚悟しました。
そして、顔面を腫らして血を流し、うめきながら起き上がれず、もしかしたら救急車なども駆けつけてくるのではないだろうか・・などと、一瞬の間に、頭の中で考えたのでした。
「それにしても、カッコ悪いな~!」などと・・

しかし、どうしたわけか、私は顔面を打ち付けることもなく、背中をしたたかに打ち付けていたのでした。
それは、もしかしたら、あの体勢から、瞬間的に頭をかばい、柔道の受身のように、前方に宙返りを行っていたのでしょう。

しかし、背中から腰辺りをしたたかに打ち付けているので、しばらくは起き上がれなかったと思います。
それでも私はすぐに起き上がり(と私は思っているのですが)、半ズボンのほこりを払い、シャツの胸のポケットから飛び出た、散らばったメモ帳やペンを探し当てて広い集め、「あれっ、携帯は?」と辺りを見回すと、なんと10メートルも先に転がってます。

「ははは」と、車の中で笑う声が聞こえてきそうでした。
「いい歳して、カッコつけているから、ほら、ザマを見ろ!」というような言葉が交わされているような気もしました。

「カッコ悪り~!」
私自身もそう思い、顔がほてってくるのがわかりました。
とても渋滞の車の車列に眼を向けることはできません。
それにしても、10メートル先の携帯電話までがなんと遠いことか・・。

さっそうと携帯電話を拾い上げ。・・といいたいところですが、
よろめきながら、たぶん、よろめきながら携帯電話を拾い上げたと思います。

しかし、それらをポケットにしまいこむと、横倒しのステップスケーターを起こし、さっそうとステップスケーターを駆って、何事もなかったかのように、走り去ったのでした。もしかしたら、口笛を吹いて走り去ったかもしれません。
何事もなかったかのように走り去る男に、
車の中からは、「おう!」というような声が上がったような気がしました。

そうです。
あのときのコケタおじさんは、私です。
あの時の男は、私です。
あの時の渋滞で見ていた方がいらしたら、そうです、あの男は私です。
かなり痛かったです。
それでも、後遺症もなく、その後も元気しておりますので、ご安心ください。

それにしても、柔道の受身は、やはり大切かもしれません。
それを伝えたくて、ここに恥を忍んで告白しました。

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